ひょっとして‥‥

 新しく開業したお医者さんへ行った。受付の女性がニコニコと迎えてくれた。どっかで見たことがある‥‥そうそう、前の病院の近くの薬局で受付をしていた女性だ。特別な面識があったわけではないけれど、二言三言言葉を交わした。知らない人ばかりだろうと思ってきたから何かホッとした。それだけで血圧が少し下がるような気さえする。
 診察室などあちこちにコンピュータが備わっている。始まったばかりだからだろう、システムを担当したっぽいスーツ姿の方が様子を伺っている。不具合はないかどうかの確認だろう。と、どっかでお会いしたことがあったような‥‥。コンピュータ関係だとすればネットデイか何かの際か‥‥いやそうではないなぁ。ネームプレートが見えて、あぁなんだウチの隣の隣の息子さんではないかと気付いて話しかけた。彼自身は別に暮らしているから知らなかったようだが、でもすぐにわかった。いやぁ奇遇ですねぇなどとまたしばらく盛り上がり、明日のいも煮会で会うからなんてローカルネタで終わった。知ってる人だと思うとまたホッとする。
 薬局で薬を受け取り、家電量販店へ。入り口のところで高校時代いっしょに走っていた友人にばったり会った。お互いにたぶんそうだよなぁという面持ちで立ち止まり、Mくんだよな(Hくんだよな)と一応確認して二人とも笑顔になった。実に二十数年ぶり、積もる話があった。誰はどうした、あいつはどこにいる、彼は消息不明‥‥。あぁこのまま近くの飲み屋にでも入ってゆっくり話をしてみたい、何ならS先輩も呼んで飲もうじゃないか、そう思うのだけれど、お互いに急いでる様子もわかる。まぁこれっきりにはならないだろうからと、またいつかの機会を期待して別れた。
 ずっとこの体重を保っているけれどでもあの頃と比べれば10キロは太ったという彼。まぁそんなものかと思う。自分は15から18キロくらい太ったから今はいっしょくらいだけど、自分の方が太って見えることがちょっとショックだった。白髪の量や額の上がり具合は彼の方が優って?てホッとした。
 しかしなぜ彼はこんなところでポカリの2リットルペットボトルを4本も重そうにぶら下げて歩いていたのかが不思議だった。ひょっとして‥‥と想像できることが見つからない。

転院

 2カ月入院・4年半通院した病院から新しく開業したところへ転院した。手術もしていただいた主治医だからである。大きな総合病院と違ってこぢんまりとしたお医者さんという感じである。お祝いの花がたくさん飾られていたが、ユリの香りが際だっていた。
 診察が月曜日(と水曜日)の午前中しかなかったので、イヤがうえでも休みを取って行かなければならなかった。それでも半日で済んでいるうちはよかったのだけれど、なんか患者数がものすごく増えて時間がかかり、異動で勤務場所が遠くなってたどり着くまでに時間がかかり、ほとんど1日がかりになってしまって困っていた。通院し始めの頃は自分の身体のためなのだからと、あえて休むことの意味を自分に言い聞かせたものだが、4年も経った現実というのはいささか不本意ではある。
 新しいお医者さんは基本的に日曜・祝祭日以外毎日やっている。土曜日もやっている。休みの日に行けるのだ。これはありがたい。夕方7時までやってるから、いざというときも頼りになる。
 何となく「やっぱり総合病院だよなぁ」という感覚はあった。が、例えて言うなら「流れ作業」のようだったと感じないこともない。受付マシンはそりゃぁすごいシステムだ。が、月に1度通院の自分は保険証確認のため結局は普通の受付にも立ち寄らなければならない。そりゃぁ大多数の方には便利なのだろうけれど少数派には意味がない。次は診療科の窓口に診察カードを置いてずっと待たされる。「現在10番台です」という表示もするようになったが、実は気休めになっていない。検査がある日はまた別のルートがあり、その内容によってあっちこっちが前後する。最後にまた終了受付マシンでチェックをし、電光掲示板を見て会計終了を確認し支払いを済ませて処方箋を受け取る。まぁ自走式だがベルトコンベアにでも乗ってあっちこっちとデカい病院内を右往左往するようなもんで、つまり健康じゃないと総合病院通院はたいへんなのである。ん?
 しかし今度は違う。受付では若い女性が迎えてくれる。それはともかく、画面に表示される「受付完了」の文字を確認してピーピーピーとやかましい確認音とともに出てくる受付票を引きちぎって診察科へ行くのとは大違い。「少々お待ちください」と大きくゆったりしたソファを案内されるのだ。ぎゅうぎゅう詰めの連結椅子なんかじゃないのだ。9時の診察開始だというのに8時ちょっと過ぎに受付しても15番くらい。ひとり最短5分でも1時間ちょっと、まぁだいたいは1時間半はかかる。つまり2時間半も待っていなければならない。これまではいつもそうだった。今度は10分と待たない。あれこれメモっておこうとPalmを持ち出したのだけれど、書き始めたらすぐに呼ばれてしまった。問診は全く変わらない。同じ先生だから。最初だし血液検査をした。わざわざ別に予約しなくてもその場でできる。結果もすぐわかる。レントゲンも撮った。以前はデカいフィルムを映す方式だったけれど、ここは「最新のすごいの入れたから」とデジタル画像を見せてくれた。解像度はかなり高そうだ。診察が終わると会計もあっという間に終わる。なんだなんだ、ソファに座ってもうしばらくのんびりしていたかったのに‥‥っていうくらいあっさり終わってしまう。もちろん大急ぎの診察なんかじゃなくてゆったりとしているのだ。
 総合病院を否定するつもりは毛頭ない。さすがは総合病院だと思うことも少なくない。大きなところはそうやって効率化しないとやっていけない。しかしこうしたマチの小さなお医者さんも、なかなかどうしてすごいなぁと思うのだ。同じ医師を違う環境で比べると、なるほどなぁと感じるのだ。