親父の一番長い日 3・両家代表あいさつ

 最近の披露宴は、次第、プログラムというものがわからない。受付で渡されるあれに書いてあるのは、席順と料理のメニューくらいのもんだ。丁寧に間柄とかも書いてあるな。
 お父さんお母さんはわかっていて当然と思っていたのだが、式の2週間ほど前だったかそのあたりを息子に尋ねたら、「それ知ってておもしろい?」と切り替えされ、お父さんオロオロしてしまったのだ。

 披露宴当日、オレはどのタイミングであいさつするのかわからない。今は先にやってしまう人だっている。宴の流れなど押さえておけば少しは参考になるかなと、まぁ安心材料を揃えておきたいわけなのだが、突き詰めて言えばそれでどうなるものでもないというのが現実。くそっ。オロオロして損しちゃった。

 あそう、それならこっちだって好きなようにやらせていただく。時間は何分くらい割り当たっているのかなぁ、わかんないなぁ、言い忘れて失礼しないようあれもこれも言わなくちゃならないよなぁ、時間かかるなぁ‥‥。
 とは思っても、長い長い巻紙やうねうねと続く蛇腹の式辞みたいのもどうかと思うから、結局だいたいの長さに落ち着くんだわな。オロオロしたって仕方ないんだわ。

 でまぁ予想どおりというか、披露宴もだんだんとフィナーレを迎えるようになって、これは普通のパターンのヤツとようやく悟った。
 ビール注ぎも一段落しあと少しか‥‥そう思って披露宴を断片的に振り返ってみると、用意していた挨拶が何だか素っ気なく思えてきちゃって、だったら少し書き加えてみようとスマホをいじり出す。期待はしてたけど意表を突かれたグリーンマン、想定外だった歌のプレゼント、名前に込めた想い、たくさんの方々への感謝、いつ伝えるか、今でしょ‥‥。
 結果‥‥昭和の香りプンプン漂うおやじ流ダジャレのオンパレード。言ってみれば挨拶も出し物のひとつだから、オレはオレ流で楽しくやってみんなを笑わせながらお開きへとつなぎたかった。おかげさまで、書き加えたりした分も功を奏し、昭和のおじさんおばさんはもちろん、年輩の方も若者たちも大絶賛の(言い過ぎ)挨拶だった‥‥んじゃないかな。想いは伝わったと思う。
 実を言うと、そこには内緒のキーワードも入れ込んでみたの。聞いたら驚くような。あんな短い間によく考えついたと自分も驚いてるけど、たぶん数人しか知らない。それでいいの。

 で、せっかくだから、マギー司郎ばりになまってみようかとボク思ったんだけどさぁ、そんな急ごしらえ的な? わざっとぽい? やってるなぁってわかるのもイヤじゃん。だからさ、いわゆる標準語っていうヤツ? それでボクやったの。んだげどやっぱ現実はマギー司郎だったがもしんにぇ。それでウゲでだのがぁ‥‥。
 ただ、酔ってはいなかったし緊張もしてなかったはずなんだけど、スマホをスクロールする右手も、マイクを握る左手も、けっこうぷるぷる震えていたんだっけ。ビールガブ飲みしてたのは酔った勢いにして‥‥。

 自分の挨拶が最後だろうという勘違い。最後は新郎の御礼の挨拶だった。ちょっと申し訳なく思った。が、シリアスに、ハキハキと、ノー原稿ですすんでいく挨拶を聴いているうちに、あぁこんなに大人になっていたんだなぁって、ここにきてようやくそんな気持ちになったというか感慨深いものがあった。
 そのまま厳かに締めくくるのかと思いきや、父ちゃん譲りの笑いもしっかり取って、あぁめでたしめでたしだった。