前撮り

 この日のことは息子から聴いていたんだけど、改めて時刻とか尋ねたら「来る必要全くない」とのつれない返事だった。
 先方のお母様だっておいでになるらしいのに「あぁそうですかじゃぁ伺いません」と普通に引き下がるわけにも行かず、まぁ顔だけ出してくるか的に必要最小限で向かうことにした。

 オレとしては母ちゃんだけでいいと思うけど、場所が曖昧だから一人では無理だとか何とか言うのは推して知るべし、結局「申し訳ございません。わざわざ御夫婦お揃いでおいでいただいて‥‥」ってことになってしまうわけだ。

 撮影が始まるという午後1時を目安に向かう。ほぼ予定どおり撮影開始。自分は30年以上前に撮って以来の感覚、今はスタジオでパシャッ!と撮るんじゃないのだとまず再認識させられる。披露宴会場となるその施設全体を使って、新妻はカメラマンの指示どおりにポージングしていく。スタイルいいからモデルさんみたいだ。決して暑い日ではないが、着慣れない着物はさすがにつらそう。ちょっと休憩したりはするけれど、持病の腰痛など慮ってみたりする。

 当然ながら、物見遊山感満載の親たちもスマホで撮影を追いかける。写り込まないように注意しつつ、区切り区切りで素人撮影タイムを設けていただく。新婦のいとこが披露宴当日のオープニングPVだかを作ってくれるらしく、そのカメラも断片的に追いかけるし、着付係の方々もいっしょに移動するから、もうすっかりちょっとした撮影会みたくなっている。

 何だかんだ約1時間の着物姿撮影終了。ウェディングドレスへの着替えに約1時間ののち、後半の撮影会がまた同じようにすすんでいく。新婦たいへんだなぁと思いながらまた追っかけ回し、夕方4時過ぎようやく撮影会いや前撮り終了。
 顔を出してくるくらいの話だったが、最後まで完全密着。いやいやお疲れさま。こっちまで「ふぅ」だ。

 新妻のお父様はおいでにならなかった。忙しい‥‥ばかりではなくて、当日まで花嫁姿は見ないのだとのこと。オレもそうかもだなぁ。披露宴すら出席したくないという気持ちもある。そんなの単なるセレモニーだからだからどうってこともないんだけどね。いや、娘の場合よ。
 んでも、やっぱり、どうってことないことではないんだよなぁと、今日の様子を見て考え直したり。
 あっさりでいいじゃないか‥‥。当初は何でも「簡単に済ます」はずだったのだが、嫁として迎える側としては、先方様のご意向を忖度して失礼のないようにと考えざるを得ない。その方がいいと実際思うし。
 結果「簡単に」は「ほどほどに」となり、豪華でこそないが何かひととおりやってる気がする。先方様次第ってこういうことなのだと今さら理解する。いいとか悪いとかじゃなくてそういうもんなのかなと。

 披露宴も「若い人たちに任せましょう」ということにしてはいるのだけれど、最終的には「お支払額はこのようになってござぁます」なんて請求額を聞かされてびっくらこくイメージがね、うんと強いの‥‥。
 ほどほどに、簡単に、それも必要だとちょっと思うの‥‥。